

インターネット美学、Vaporwaveについて解説したページです。
Vaporwaveとは?
Vaporwaveとは、2010年代初頭にインターネットを通じて生み出され、広まった音楽ジャンル、また、映像やデザインの視覚芸術全般を指します。
Vaporwaveの音楽は、1980年代のファンク、ジャズ、R&Bをスローダウンにしたり、ピッチダウンさせて編集されるのが特徴です。これが、何とも言えないノスタルジーで不思議な雰囲気を生み出しています。
Vaporwaveという名称は、2011年に音楽プロデューサーのWill (Robin)Burnettが、音楽が蒸気に包まれるような感覚を与えることからVapor(蒸気)wave(波)と名付けました。または、未発売のソフトウェアを指す「Vaporware」を暗示しているとも考えられています。
Vaporwaveってどんな音楽?
まずは、この音楽を聴いてみてください!一気にVaporwaveの世界観が掴めます。
Vaporwaveの金字塔:「リサフランク420 / 現代のコンピュー」by Macintosh Plus
この音楽からVaporwaveというインターネット美学のジャンルが広まりました。
音楽的特徴は例えるならば、子供のころ、深夜のテレビから流れる音を夢心地で聞いている感じ。
1980年代のファンク、ジャズ、R&Bなどの懐かしい音楽をピッチダウンしたりスローにしたり、同じ個所を何回もリピートして制作されることが多いです。
たまに日本のコマーシャルや音楽もサンプリングされることもあります。1980年代の経済的に豊かだった日本のイメージが反映されているのでしょうか。

ちなみにVaporwaveの曲は、既存の音楽を許可なく使用してたりするので、著作権的に結構グレーな作品が多いです…
Vaporwaveの代表的なアーティストを以下にまとめてみました。Bandcamp, Soundcloud, Tumblrといった、インディペンデント志向の強いプラットフォーム出身のアーティストが多いのが特徴です。
- Vektroid (別名義: Macintosh Plus, PrismCorp Virtual Enterprises, Virtual Information Desk, dstnt, Laserdisc Visions, New Dreams Ltd)
- James Ferraro
- Daniel Lopatin (a.k.a Chuck Person, Oneohtrix Point Never, sunsetcorp)
- Skylar Spence (別名義: Saint Pepsi)
- t e l e p a t h テレパシー能力者
- 猫 シ Corp. (Catsystem Corp.)
- マクロスMACROSS 82-99
- 2814
Vaporwaveのビジュアル
Vaporwaveの音楽が、何やら独特な映像と共にYouTubeにアップロードされることから分かるように、視覚芸術もまた、Vaporwaveの文化には欠かせません。
カラフルなネオンや、初期のパソコンに入っていそうなローポリの3Dグラフィック、ギリシャ彫刻、翻訳調の謎日本語テキスト、Windows 95の画面、そして熱帯風の風景といったモチーフが並んでいます。

インターネット初期の粗野なデザインや人工的な配色が、懐かしくも夢のような、不思議でシュールな世界観を作っていますね。
画像引用元:Aesthetic Wiki, Vaporwave https://aesthetics.fandom.com/wiki/Vaporwave?file=Tumblr_onaxy6MY611w4xdj1o1_400.png#Music
Vaporwaveの視覚芸術は、デジタル時代前のアナログな頃への憧れが表れたものかもしれません。または、使われるモチーフが80~90年代の贅沢な人工物やコマーシャルであることから、ヤッピー文化や使い捨て消費文化への批判とも考えられています。
Vaporwaveのカラーパレットを作ってみました。Vaporwaveで特徴的なネオン色の配色は、80年代に流行していた「メンフィスデザイン」の影響が大きいと考えられます。
メンフィスデザインとは、イタリアのデザイナーたちが中心となり、80年代に広まったデザインスタイルのことを指します。


Vaporwaveが広まった背景
Vaporwaveのルーツは、音楽的な側面では、Chillwave,hypnagogic pop, seapunkなどにあたります。
Daniel LopatinやJames Ferraroなどのアーティストは、レトロなサンプリングと、ゆがんだサウンドを実験的に使用することで、Vaporwaveの初期のサウンドを形作る上で重要な役割を果たしました。彼らの音楽は、Vaporwaveという名前が確立する前、Eccojamsと呼ばれていました。
2010年のChuck Person(Daniel Lopatin)の「Eccojams Vol. 1 」は、Vaporwaveの元祖とも言えます。
こちらの「nobody here』は「Eccojams Vol. 1 」の中の一曲。
その後、Vektroidの別名義であるMacintosh Plusによる2011年のアルバムFloral Shoppe(フローラルの専門店 )がBandcampでリリースされ、Vaporwaveを象徴する作品が生まれました。ダイアナ・ロスの曲「It’s Your Move 」をスローダウンし、大幅に加工したサンプルを使用しています。
YouTubeにアップされたサムネイルのヴィジュアルも相まって、アルバムの中の一曲「リサフランク420 / 現代のコンピュー」はVaporwaveの中で最も象徴的で最も知られる曲となりました。
その後、Vaporwaveという名称でTumblrやReddit、YoutubeなどのSNSを通して、この不思議なジャンルが広まっていきました。
Vaporwaveのサブジャンル
Vaporwaveの音楽には、いくつかサブジャンルも存在します。今やかなり細分化されているので、ここでは一部を紹介したいと思います。
Future Funk
Vaporwaveの懐かしい雰囲気はそのまま、Vaporwaveよりも明るく、ダンサンブルという特徴があります。
初期のFuture Funkは1980年代のファンクやディスコを中心にサンプリングしており、視覚的な要素が少なかったです。Saint Pepsiのアルバム『Hit Vibes』が代表作です。
その後、日本のシティポップやアニメ音楽をサンプリングする方向へ進化しました。視覚的にも、80年代の日本のアニメの映像を背景に流したり、アルバムのカバーも80年代アニメ風のイラストが多用されています。主要アーティストにはMacross 82-99やYung Bae、Night Tempoが挙げられます。
Mall Soft
まるでショッピングモールを歩いているかのような雰囲気を感じさせるジャンルです。アナウンス、コマーシャル、人々の話し声、足音、時間を知らせる時計の鐘、遠くから聞こえるメロウなBGM。消費の聖地、モール。不思議な哀愁と空虚さが漂います。代表的なアーティストには猫 シ CORP.が挙げられます。
Ambient Vaporwave
Ambient Vaporwaveは、穏やかでアンビエントなサウンドが特徴です。リズムやメロディーよりも、空間的な音の広がりに重点を置いており、映画のサウンドトラックのような雰囲気も感じられます。代表作は2814(HKEとTelepathのコラボプロジェクト)の「新しい日の誕生」。
Signalwave
テレビやラジオのコマーシャルやBGMを断片的に引用し、音が短く切り替わり続いていく特徴を持っています。まるで本当に80年代のテレビを永遠に見ているかのような感覚を呼び起こします。Fuji Grid TV(Vektroidの別名義)のPrism Genesisが代表作。

Vaporwaveのサブジャンルは、ここには載せきれないぐらい、もっともっと細分化されています。興味がありましたらぜひ調べて深堀してみてください♪
Vaporwaveに関連する映画
『ブレードランナー』(1982)
この映画は、Vaporwaveの世界観を直接的に表しているわけではありませんが、1980年代の人が考えた未来像やサイバーパンク的なビジュアル、そして消費主義とテクノロジーが支配する世界観が類似しています。
また、都市のネオンや霧がかった風景、ヘンテコな日本描写といった視覚要素も、Vaporwaveの雰囲気と通じるところがあるような気がします。
映画のサウンドトラックも影響力が大きく、Vangelis(ヴァンゲリス)が手がけたシンセサウンドは、Vaporwaveの音楽スタイルに似た幻想的でミステリアスな雰囲気を持っています。
日本での広まり
主に英語圏で広まったインターネット文化でしたが、最近では日本でも話題になっているようです。以下、日本で話題になっているVaporwave関連の動画をご紹介します。
Especia「くるかな」MV
Especiaという日本のアイドルがVaporwaveコンセプトで活躍していました。時代を先取りしたコンセプトでしたが、惜しくも2017年に活動停止。悲しいです…。
故障(EP)」が日本でバズる
YouTubeにアップされている「故障 EP」のコメント欄が日本人で埋め尽くされており、最近やっと日本でも知名度があがってきているみたいです。興味深いのは、海外の人々からは出てこない「小学生の時に見させられたVHS教育ビデオの音楽みたい」といったコメントが多かったこと。日本人だけの共通感覚なのでしょうか。
裏vaporwave無職.exe.mpg
某日本の有名ユーチューバーをサンプリングしたVaporwave。インターネットミームである彼と、同じくインターネット発祥の文化の親和性は聴かずとも分かってしまいます。
もっとVaporwaveを知りたい方へ!
以下、この美学をより深く理解するのに役立つ外部リンク、メディア情報を紹介します。
・Vaporwaveの名盤を網羅しているサイト: https://nuvaporwave.neocities.or
・エッコ チェンバー 地下: https://ongaku-modkey.hatenablog.com/entry/2020/04/vaporwave-terms
(才ンガク毛ドキさんのブログ。Vaporwaveについて用語や歴史が分かりやすくまとめられています。)
・書籍:新蒸気波要点ガイド ヴェイパーウェイヴ・アーカイブス2009-2019)
まとめ
Vaporwaveは、1980年代の消費社会や広告文化を背景に生まれた、なんだか不思議で懐かしいインターネット文化です。
どこか「失われてしまったものへの哀愁」が漂っているところが魅力だと思います。
たとえば、かつて大量に作られ、消費され、そして忘れられていった物たち。人間の理想を映すように作られた映像や音楽。そういうものが、今この時代に「エコーのように」響いている感じがします。

Vaporwaveは、子供のころの夢の残骸に包まれているような感覚になり、なんだか安心するのと同時に、とてつもない切なさが襲ってくる感じがします。その曖昧さこそが、この美学の魅力だと思います。
出典
・Overstandard Aesthetic Dreams: Unpacking the Rise and Influence of Vaporwave https://overstandard.dk/aesthetic-dreams-unpacking-the-rise-and-influence-of-vaporwave/
・Aesthetics Wiki Vaporwave https://aesthetics.fandom.com/wiki/Future_Funk
・Dictionary.com https://www.dictionary.com/e/slang/vaporwave
・ユリイカ 2019年12月号 特集=Vaporwave 青土社 (2019/11/28)
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